古川 智之1,2
1介護老人保健施設ケアセンターこうせい,2社団美松会生田病院 内分泌内科

連絡先 〒520-3242 滋賀県湖南市菩提寺104-14 介護老人保健施設ケアセンターこうせい furusato21@gmail.com
原稿受付 2026年2月27日/掲載承認 2026年4月8日

抄録

 アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感,易刺激性,興奮に起因する過活動または攻撃的言動について,ブレクスピプラゾールは日本で唯一の適応となっている.介護老人保健施設に入所となった92歳女性は,アルツハイマー型認知症に伴うBPSDとして食事に対する拒絶があった.ブレクスピプラゾール 0.5mgを開始したところ,翌日より食事への拒否がなくなり,食事量が増加した.また抗精神病薬を中止することができた.今回食事量と体重の変化が,薬剤効果の指標となった症例を報告する.

キーワード:アルツハイマー型認知症,アジテーション,食事拒否,ブレクスピプラゾール

諸言

 2024年9月ブレクスピプラゾールに「アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感,易刺激性,興奮に起因する,過活動または攻撃的言動」として適応が追加された.これは,アルツハイマー型認知症に焦燥感を有する患者を対象とした国内臨床試験により有効性及び安全性が確認されたもの1),2)で,これに基づき,「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン第3版」3)にも,ブレクスピプラゾールの使用を考慮することが記載された.

症例

 92歳,女性.2025年4月病院より介護老人保健施設に入所となる.既往歴;アルツハイマー型認知症,左下腿骨折,右下腿骨折,肺炎.体重 40.9kg.血圧 133/87mmHg,脈拍 76/分,SpO2 97%(room air).障害高齢者の日常生活自立度はB2.認知症高齢者の日常生活自立度はⅢa.

 入所時の処方は,エルデカルシトール(0.5μg)1錠,ランソプラゾール(15mg)1錠,アゾセミド(30mg)0.5錠,それぞれ朝食後,クエチアピン(25mg)0.5錠,メマンチン(20mg)1錠,それぞれ夕食後であった.

経過

 多弁で指示が入らない,食事と水分摂取の拒否が多く食事量に変動がみられた.看護スタッフから栄養士に食事形態の変更を依頼されていたことから,5月12日ブレクスピプラゾール 0.5mgを開始することとした.ブレクスピプラゾール開始翌日より食事拒否がなくなり,食事量が増加,その後全量摂取で安定した(図1).本人より「いままで迷惑をかけて申し訳ありませんでした」「よくしていただいてありがとうございます」との言動も聞かれるようになった.体重も約2㎏減少していたが,1週間以内に回復した(図2).その後クエチアピンを中止し,メマンチンも減量し現在は5㎎で維持している(図3)が,特に問題なく経過している.

図1 ブレクスピプラゾール開始前後の食事量(主食)の変化

図1 ブレクスピプラゾール開始前後の食事量(主食)の変化
食事は普通全粥きざみ食のままで10割が全量.

図2 体重の変化

図2 体重の変化
食事の拒否により体重は約2㎏減少したが,ブレクスピプラゾール開始後,回復し安定した.

図3 介護老人保健施設に入所後の処方

図3 介護老人保健施設に入所後の処方
5月12日よりブレクスピプラゾール0.5㎎を開始.6月2日よりクエチアピンを中止し,6月9日メマンチンを10㎎へ,6月12日には5㎎へ減量し維持継続中である.その他の処方は変更なし.

考察

 本症例はアルツハイマー型認知症のBPSDとして食事拒否があった.アルツハイマー型認知症に伴うアジテーションの評価尺度としてCMAI(Cohen-Mansfield Agitation Inventory)が,認知症疾患診療ガイドライン2017で推奨されている4).CMAIによれば本症例はFactor 3非攻撃行動(言語)においてスコアが9から5に変化した.今回はCMAIのほか食事量と体重の顕著な変化が効果の指標になった.介護老人保健施設であり,医療費の問題からブレクスピプラゾールを1㎎へ増量することはできなかった.しかし0.5㎎でも効果は早期にみられ,また継続維持できていることから,増量の必要性は低いと考えられた.そしてブレクスピプラゾールは,92歳であっても安全に使用できる薬剤と思われる.

謝辞

 食事量をはじめとした日々の観察評価と,定期的な体重測定の依頼に快く応じていただいた介護老人保健施設ケアセンターこうせいの看護スタッフ,また大塚製薬株式会社京滋北陸支店大津出張所医薬情報担当の長井洋子氏より,大変貴重な症例であり報告に値するとのご評価をいただいたことに深謝いたします.

利益相反(COI)開示 本論文発表内容に関して特になし.

文献

1) Furukawa K, Tomita N, Uematsu D, et al: Randomized double-blind placebo-controlled multicenter trial of Yokukansan for neuropsychiatric symptoms in Alzheimer’s disease. Geriatr Gerontol Int 2017; 17: 211-218.

2) Nakamura Y. Adachi J. Hirota N. et al: Long-term safety and tolerability of brexpiprazole for Japanese patients with agitation in Alzheimer’s disease dementia: a multicenter, open-label study. J Alzheimers Dis Rep 2025; 9: 1-11.

3) 令和6年度厚生労働科学研究費補助金.かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版).

4) 日本神経学会 監修,「認知症疾患診療ガイドライン」作成委員会 編集.認知症疾患ガイドライン2017.医学書院,2017.


Satoshi Furukawa1,2
1Geriatric Health Services Facility, Kosei Care Center
2Endocrinology, Ikuta Hospital, Medical Corporation Bishokai

Geriatric Health Services Facility, Kosei Care Center, 104-14 Bodaiji, Konan-city, Shiga 520-3242, Japan  furusato21@gmail.com
Received 2026 Feb 27/Accepted 2026 Apr 8

Abstract

Agitation in Alzheimer`s dementia is a great burden for patients and caregivers. Food refusal in older adults with dementia is one of the behavioral and psychological symptoms of dementia (BPSD). A 92-year-old female had fluctuating appetite, demonstrating food refusal behavior. She lost 2 kg in less than two weeks. Brexpiprazole was approved in Japan as the first and only drug to treat agitation in BPSD due to Alzheimer`s disease (AD) in 2024. She responded to treatment with 0.5 mg of brexpiprazole. Her food intake improved, and her weight returned to baseline. We report a case of food refusal and weight loss successfully treated with brexpiprazole. We confirm the efficacy, safety, and tolerability of brexpiprazole in elderly patients with agitation in Alzheimer dementia.

Keyword: Alzheimer’s disease, Agitation, Food refusal, Brexpiprazole