佐藤 新平1,長澤 滋裕2,荻野 祐也3,大坪 竜太4,
小野 悠美5,荒川 大輝6,平田 悠哉7,浦勇 慶一8,
仲摩 恵美9,別府 幹庸10
1大分市医師会立アルメイダ病院 婦人科,
2飯塚市立病院 内科,
3唐津赤十字病院,
4ながさき地域医療人材支援センター,
5熊本赤十字病院 総合内科,
6椎葉村国民健康保険病院 総合診療科,
7鹿児島赤十字病院 総合診療科,
8杵築市立山香病院 総合診療科,
9国東市民病院 総合診療科,
10社会医療法人関愛会三重東クリニック 小児科
責任著者:佐藤新平(m01038ss@jichi.ac.jp)
〒870-1195 大分県大分市宮崎1509-2 大分市医師会立アルメイダ病院 婦人科
原稿受付 2026年8月4日/掲載承認 2026年8月21日
抄録
第42回九州地域医学研究会が2026年2月14日に大分市で開催された.本研究会では「咸宜,七県七色〜他県のいいところを学ぶ〜」をテーマに,九州各県における自治医科大学卒業医師の義務年限内での勤務実態およびキャリア形成に関する課題がシンポジウムで共有された.本報告では,各県の取り組みと課題を整理し,専門医資格取得,義務年限修了後のキャリアおよび定着率,ライフイベント対応の3点から考察した.義務年限は拘束期間ではなく,卒後医学教育の課題発見のきっかけ,地域医療人材の育成期間として評価されるべきだと考える.
キーワード:地域医療,自治医科大学,九州地域医学研究会,医学教育
緒言
自治医科大学卒業医師は,義務年限(一般に,卒業後9年間)に出身都道府県でのへき地を含む医師不足地域での地域医療に従事する.九州地域医学研究会は,九州において地域医療に携わる医療従事者の研鑚および親睦の向上を目的として,自治医科大学卒業医師を中心に構成された研究会である1).今回,公益社団法人地域医療振興協会の協賛により,第42回九州地域医学研究会が2026年2月14日,大分市で開催された.本大会では「咸宜,七県七色〜他県のいいところを学ぶ〜」をテーマとし,地域医療に従事する九州内の義務年限内医師の労働環境およびキャリア形成について,九州各県の取り組みと課題がシンポジウムで討論された.本報告では各県の発表内容を整理し,考察を加え報告する.なお,発表要約および英語抄録にはChat GPTを使用し,共同筆者が内容を確認した.

仲摩恵美実行委員長からの挨拶

永井良三学長からのご挨拶
九州各県からのシンポジウム発表要約
福岡県:へき地医療機関への1人派遣による負担,専門医資格取得の困難さ,義務年限離脱者の増加が課題として提示された.勤務設計(診療日の集約化・遠隔診療での補完),Microsoft Teamsを用いた自治医科大学卒業医師間のコミュニケーション,飯塚市立病院での専門研修(総合診療・内科・救急科)の新設を実現した.
佐賀県:義務年限内医師数の偏りによる離島診療所任期の期間延長,義務年限修了後の県内定着率が課題として挙げられた.アンケート調査では,離島派遣の延長については一定の理解が得られているものの,専門医資格の取得や専門研修への柔軟性が重要な条件として示された.そうしたニーズに対応した環境整備により,近年,県内定着率が改善してきている.
長崎県:多数の有人離島を有し,県病院企業団による一体的な医療体制が特徴である.自治医科大学卒業医師を含む地域医療従事医師は同一組織に所属し,義務年限中に長期間の離島勤務を行うとともに,複数領域(基本的に内科,外科,整形外科,産婦人科,小児科,総合診療科,救急科の7診療科)で専門医取得が可能な体制が整備されている.さらに,長崎大学病院 地域医療支援センターによる卒前・卒後教育と長崎大学医局と協働した専門医資格取得を含めたキャリア形成や学位取得の支援などにより,義務年限修了後までを見通した支援制度が構築されている.これらの取り組みにより,義務年限修了後の県内定着率向上が期待されている.
熊本県:医師年数とともに異なる課題が明らかとなり,特に専門医取得とライフイベントの両立が重要なテーマとして挙げられた.熊本県庁に所属する義務年限修了医師とのキャリア相談ができる環境がある.産休・育休などで離脱する医師を支援する「地域勤務医師等支援枠」により,他の義務年限内医師からの診療応援を調整する体制が整備されている.
宮崎県:アンケート調査で一部の診療科は専門医取得が可能とされる一方,へき地勤務における指導不足や研修機会の制限が課題として挙げられた.義務年限修了後に県内都市部での勤務を希望する医師が多く,義務年限修了後のキャリアや働き方に関する悩みが挙げられた.地域医療の持続性に向け,キャリアパスの多様化や支援体制の整備の必要性が発表された.
鹿児島県:多数の有人離島を抱え,離島医療が重要な役割を担っている.義務年限内での後期研修は1年間と制限があるが,鹿児島大学との連携により一部診療科では専門医取得が可能な専門研修プログラムが整備されている.アンケート調査では,ライフイベントへの対応や地域枠卒業医師とのキャリアの差に対しての不安が示された.
大分県:一人派遣の医療機関が比較的少なく,地域中核病院と診療所を中心とした勤務体制が構築されている.義務年限中に後期研修を2年間取得可能であるが,派遣状況によっては研修機会の確保が困難な場合もある.アンケート調査では志望している診療科は多岐にわたるが,実際の派遣は内科が中心で,内科以外の専門医取得が難しい現状が示された.大分県庁との意見交換など,キャリア支援・勤務状況の改善に向けた取り組みが継続的に行われている.

全体集合写真
考察
第42回九州地域医学研究会シンポジウムで,九州各県における自治医科大学卒業医師の義務年限内の勤務実態および現在の課題を確認できた.
1984年箕輪らにより,当時の自治医科大学卒業後の初期研修(6割以上がローテート研修.残りはセミローテートまたは単科研修)とアメリカの家庭医研修が比較され,日本の卒後教育システムやプライマリ・ケア医養成への課題が示された2).その後,箕輪らの自治医科大学卒業医師の初期研修に関する自記式調査票は,日本の初期研修における研修内容調査票の開発につながっている3).各県で行われている義務年限内の専門医資格取得のためのプログラム整備や環境調整が状況改善につながれば,へき地に勤務している医師への卒後医学教育システムを改善していくきっかけになるかもしれない.
岐阜県自治医科大学卒業医師の義務年限修了後のキャリアパスの検討では,義務年限終了後に医師不足地域で勤務をする要因としてロールモデルの存在と地域派遣以降でのキャリア決定が報告されている4).義務年限修了後までを見通したキャリア支援の中心には,自治医科大学卒業医師がロールモデルとして関わっていくことが県内定着率の向上に寄与するのではないかと考える.
自治医科大学女性卒業医師への就業継続に関する調査で,ワークライフバランスはキャリアアンカーとして最多であり,医師になってからは学生時代よりも重きを置いて考えていることが報告された5).自治医科大学地域医療推進課女性医師支援(現,J-PASS)では,ライフイベントで発生する自治医科大学卒業医師のさまざまな葛藤に対して支援を2007年から継続・発展させている6).現在10名の自治医科大学卒業医師がJ-PASS支援サポーターとして,義務内卒業生の勤務や出産育児に関する支援に対応している6). 以上より,自治医科大学における義務年限は単なる拘束期間から,卒後医学教育の課題発見のきっかけ,地域医療人材の育成期間として醸成されつつあり,改めて評価されるべきだと考える.40年以上にわたり,九州各県の自治医科大学卒業医師の取り組みを共有し議論を続けている九州地域医学研究会の役割は,今後もさらに重要になると考える.
まとめ
九州各県における自治医科大学卒業医師の義務年限内の勤務実態と課題を比較した.専門医資格の取得,義務年限修了後のキャリアおよび定着率,ライフイベント対応の3点が重要な要素である.これらへの対応により,義務年限は卒後医学教育の課題発見のきっかけ,地域医療人材の育成期間として改めて評価されるべきだと考える.
利益相反の開示:開示すべき利益相反関係はない.
発表:本内容は,第42回九州地域医学研究会(2026年2月14日,大分市)において発表された.
文献
1) 九州地域医学研究会.http://kyushu-med39.com/(accessed 2026 Jul 13)
2) 箕輪良行,坂本健一,荒川洋一:自治医科大学卒業生の初期臨床研修とアメリカの家庭医.medicina 1984;21(2):377-381.
3) 箕輪良行,吉新通康,三宅由子,他:初期臨床研修における研修内容調査票の開発技術的項目到着度評価表の信頼性及び妥当性に関する研究.医学教育 1996;27(2):99-103.
4) 廣瀬英生,後藤忠雄,小谷和彦:岐阜県出身自治医科大学卒業医師における義務年限後のキャリアパスに関連する要因の検討.自治医科大学紀要 2022;44:21-25.
5) 牧野伸子,仲摩恵美,吉村成子,他:自治医科大学女性卒業生を対象とした就業継続に関する調査結果.月刊地域医学 2016;30(6):462-466.
6) J-PASS(旧:女性医師支援)について.自治医科大学地域医療推進課.https://www.jichi.ac.jp/chisuika/shien_woman/(accessed 2026 Jul 13)
Report on the 42nd Kyushu Chiikiigaku Conference
Shimpei Sato1, Shigehiro Nagasawa2, Yuya Ogino3, Ryota Otsubo4, Yumi Ono5, Daiki Arakawa6, Yuya Hirata7, Keiichi Uraisami8, Megumi Nakama9, Yoshinobu Beppu10
1Department of Gynecology, Almeida Memorial Hospital
2Department of internal medicine, Iizuka City Hospital
3Japanese Red Cross Karatsu Hospital
4Region Medical Resources Support Center in Nagasaki
5Department of General Internal Medicine, Kumamoto Red Cross Hospital
6Shiiba Village National Health Insurance Hospital
7Department of General Medicine, Kagoshima Red Cross Hospital
8Department of General Medicine, Kitsuki City Yamaga Hospital
9Department of General Medicine, Kunisaki City Hospital
10Division of pediatrics, Sekiaikai Mie Higashi Clinic
Corresponding author: Shimpei Sato (m01038ss@jichi.ac.jp)
Department of Gynecology, Almeida Memorial Hospital, 1509-2 Miyazaki, Oita-City, Oita 870-1195, Japan
Received 2026 Aug 4/Accepted 2026 Aug 21
Abstract
The 42nd Kyushu Chiikiigaku Conference was held in Oita City on 14 February 2026. At a symposium, the current working conditions and career development of physicians who graduated from Jichi Medical University were discussed. This report summarizes the challenges in each prefecture of Kyusyu and discusses them from three perspectives: specialist certification, career paths after the obligatory service period, and support for life events. The obligated service period should be regarded not as a period of restriction, but as an opportunity to identify challenges in postgraduate medical education and a period of professional development in community medicine.
Keywords: Community medicine, Jichi Medical University, Kyushu Chiikiigaku Conference, Medical education